エコツアー・ドット・ジェイピー

BACK NUMBER   この記事は2003年夏に掲載されたものです。

長野県学習旅行誘致推進協議会が誕生し、
体験学習の現場ではどのような変化があったのか?
同県のNPO法人やまぼうし自然学校の
代表理事・毛受俊郎氏に伺いました。


「それって環境破壊じゃないの?」
 里山の木を切る自然体験学習プログラムがあることを中学校や高校の先生方に話すと、「たいてい驚かれる」と話すのは、やまぼうし自然学校の代表理事・毛受俊郎(めんじょうとしろう)。「内容を説明するとすぐにご納得いただけます。でも、その生徒さんたちは、地球温暖化を防ぐには森を守る必要があると、観念的に分かっていますが、どうすれば森を守れるのか?  森は木を切らずに放っておけばよいのか?という問いには、答えられないことが多いんですね」。
 実際に木を切るために生徒たちを森へ案内すると、女生徒たちなどは面倒くさそうな顔をしてついてくる。そのとき雨が降っていたりすると、この世の終わりみたいな顔になるという。
 ところが、2人で1本、時間があれば2人で2本の木を切らせるうちに、決まって「もう1本!」と懇願される。「自分の手で木を切り倒したという達成感に加え、それまで薄暗かった森の中が間伐によって光が差しこむようになり、足下の草がいきいきと見える、気持ちよい風が森にさーっと入ってくるのが分かる。森を守るには森に手を加え草が生えるような環境を維持する必要があることが、言葉で説明しなくても実感できる。だから楽しいし、もっと木を切りたくなるんでしょうね」




 やぼうし自然学校は、森林ボランティア、森林環境教育、指導者養成の3つの事業を柱にするNPOで、法人になって今年で3年目。環境保全のNPOとしては長野県で1番目、全国でも2番目に認可を受けた。しっかりした活動実績がなければ、このようないち早い認可を受けることはできない。
 同校で自然学習体験をした小中学校・高校の2000〜2001年度実績は103校。それが2002年度には単年度だけで76校に増え、一般団体利用と併せて109団体1万2,098名が利用した。
 この急増の理由のひとつには、2000年3月に長野県学習旅行誘致推進協議会が発足したことが大きい。
 「協議会ができる前までは、県とは林務部とのつながりがほとんどで、民間団体とは、やまぼうし自然学校がある真田町では、菅平地区のホテルのオーナーと若干の付き合いがある程度でした。ところが協議会ができてからは、県観光課をはじめさまざまなセクションとの連携が生まれ、民間団体とは全県的に付き合いができるようになった。また真田町においては、協議会の支部がつくれました。観光協会のパンフレットの中でやまぼうしの活動が紹介されるようになって僕たちの存在が見えやすくなったことも、利用者増の要因です」
 たとえば、この夏に長野県学習旅行誘致推進協議会真田町支部が主催する「サマーキャンプin信州」は、協議会がフルに機能した成果といえる。小学生を対象にした2泊3日のキャンプだが、旅行会社などが単独で企画するものとはひと味違う。
 「木こりになろう」「早朝バードウォッチング」「水源の森を訪ねてハイキング」など、やまぼうし自然学校が主催する自然体験が9コースあり、それぞれ農家での収穫体験もある。また午前中に自然体験や収穫体験をするプログラムなら、午後は地元小学校の教室を使っての「学習時間」。宿題持参もOKで、その指導は信州大学生が担当する。子どもたちの健康状態はインストラクターや農家、学生たちがチェックするほか、民宿やホテル、ペンションのオーナーが子どもたちと一緒に食事をとることで、食欲不振になっていないか、ホームシックになっていないかなどを見る。実にきめ細かな対応とプログラムの充実を実現している。
 このキャンプを後援する団体に名を連ねたのは、長野県、長野県教育委員会、真田町、真田町教育委員会、信州大学、長野県観光協会、長野県学習旅行誘致推進協議会、長野県ホテル旅館生活衛生同業組合、長野県農業協同組合、長野県森林組合連合会、菅平高原観光協会、菅平高原旅館組合。田中康夫知事もこのキャンプを告知するチラシやWEBにメッセージを寄せており、長野県全体で力を入れていることが分かる。今回のキャンプが成功すれば、おそらく今後は、県内各地で同様のキャンプが実施されるのだろう。

「サマーキャンプin信州」の当サイトでの詳細情報を見る
「サマーキャンプin信州」のHPを見る



 やまぼうし自然学校を利用する学校が増えたもうひとつの理由は、「総合的な学習の時間」の実施だ。これは文部科学省が昨年度(高校は今年度)から行っているもので、画一的といわれる従来の教科学習とは異なり、
(1)地域や学校、子どもたちの実態に応じ、学校が創意工夫を生かして特色ある教育活動が行える時間
(2)国際理解、情報、環境、福祉・健康など従来の教科をまたがるような課題に関する学習を行える時間
として新設したもの。小学校では3年生以上が週当たり3時間程度、中学校では週当たり2〜4時間程度、高校では卒業までに3〜6単位となるように授業を行う。
 教科書はないため、現場の教師にはこの授業が負担になる場合もある。教師のすべてが国際理解や情報、環境等を専門的に学んだわけではないからだ。そこで、総合的な学習の時間でたとえば「環境」をテーマにする場合、やまぼうし自然学校などで実施している自然体験学習をカリキュラムの中に組み入れ、学校での授業のまとめをそこで行うというケースが出てくるのである。
 「熱心な先生方がいらっしゃる私立学校では、先生自らが私どもに連絡をとられたり、学校で事前に授業をやってほしいという要請をされたりします。先生方と一緒に、体験学習の内容を決めていくことも多いですね」
 一般的に公立学校の場合は、学校と付き合いのある旅行会社が長野支店などを通じて体験学習を実施する団体とコンタクトをとるケースが多い。旅行会社に体験学習を正しく理解してもらうことが長野の利益につながるため、長野県学習旅行誘致推進協議会では
旅行会社の体験学習の研修に、一部補助金を出している。



 利用者が増えることをやまぼうし自然学校は手放しで喜んでいるわけではない。「現状では十分な対応ができていますが、さらに2倍、3倍と急増したら、インストラクターが足りなくなります。自然の中で生徒さんたちに安全に作業してもらうには、しっかりとした知識と経験を持つインストラクターが不可欠。適切な人員配置を行わないで不満足な体験になったり大きな事故が起こったら、やまぼうしの信用失墜になるのはもちろん、他のNPOにも迷惑がかかり、体験学習の実施を見合わせる動きになってしまうことも考えられます。環境学習がこれからますます注目されるときだからこそ、慎重な対応が求められているのです」
 当然、他所の信用失墜が引き金になってしまうこともある。少なくともやまぼうし自然学校ではそうした事態がないよう、無理な条件での体験学習は引き受けないという内部規制を設けるとともに、NOP法人としての事業の柱であるインストラクターの養成に力を注いでいるという。
 「都会暮らしをしている子どもたちは、自然に対するアンテナが錆びてしまっています。落ち葉が積もったスポンジのような道を歩いていても、それが落ち葉のせいだということに気づかなかったり、鳥の声など森から発信されている情報を受け取れなくなったりしています。森と都会は子どもたちの中で、分断されているのです。森の荒廃は単に自然環境問題だけでなく、子どもとその大人の社会で起こっているさまざまな社会問題の起因にもなっていると僕は考えています。このような問題に対して遠回りかもしれませんが、やまぼうし自然学校は森林をキーワードに活動と提案をしていきたいと考えています」
 かつて教壇に立っていた身だからこそ、足下からの森林教育がいかに重要かを知っているのだ。


■毛受俊郎プロフィール■
1993年まで 東京で小学校の教員
1994年 宿泊業をしながら自然学校設立準備
2000年 NPO法人やまぼうし自然学校認証
2002年 同自然学校 代表理事
***
主な自然関係資格:森林インストラクター、環境カウンセラー、全日本スキー連盟公認指導員

[森林ボランティア体験]
里山の森は放置したままでは荒れるばかり。間伐を体験する中で森と木の仕組みを学ぶプログラムがこれ。森の資源は循環してこそ活きることを再認識するために、切り出した木を持ち帰って工作などに利用する学校もあるという。
[デイキャンプ・森の生活]
森の楽しさや不思議をストレートに体験できるのがこのプログラム。火起こしや屋外クッキング、ネイチャーゲームなどを通じて、自然の仕組みを知る。写真は子どもたちに大人気のピザづくり。
[水源の森調査]
緑のダムといわれる森から生まれる水がどんなに大切かを知るためのプログラム。学校から水道水を持ってきてもらい、飲み比べを行ってもらうことも。
[ネイチャークラフト]
「自然のつるは、森のマントの役割をしている」。そんな解説とともに始まるのがネイチャークラフト。森の資源利用を学ぶ機会にもなる。宿舎での夜の時間に採用されることも多い。悪天候で体験学習そのものが中止になった場合、室内で作業できるこのようなプログラムがあると、学校側も安心するという。

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