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イトヒロの東京不自然図鑑

<月イチ連載>

2004年7月26日up

 新宿から電車で10分。住宅地とはいえ、東京のど真ん中ともいえる世田谷にも自然があります。というより、都会でしか見られないような自然もあるのです。一般常識から言えば不自然とも思える東京の自然最前線を、お散歩がてらご紹介しましょう。



第13回「アオスジアゲハ」

 濃い焦茶色の地にアクアブルーの鮮やかな帯。空高く高速で飛び回るアオスジアゲハは子供のころの憧れのチョウでした。
 東北の田舎町ではただでさえ珍しく、たまに見つけても捕まえられるものではありません。子供の捕虫網では、あのスピードと高さについていけないのです。夏休みの宿題の昆虫採集で(昔はこんなのもあった)、友達の標本にアオスジアゲハを見つけるたびにくやしい思いをしたものでした。
 ところが数年前の夏、息子がたまたま地面の近くに飛んできたアオスジアゲハのつがいを、もののみごとに網に収めたのです。やった! 7才にして信じられない快挙!と喜んだのも束の間。網を閉じ忘れて逃がしてしまいました。運があっても技術がなければ、憧れのチョウを捕まえるのは無理なのでしょうか……。
 でも、その可能性が全くないわけでもありません。私の子供のころとちがって、東京にはなぜかアオスジアゲハがたくさんいるのです。それも自然の残っている郊外より、都心部の公園などに多いのですから不思議です。その理由は、街路樹にたくさん植えられたクスノキのせいでした。
 アオスジアゲハは南方系のチョウで、東南アジアから徐々に北上してきたといわれています。そのため日本では北海道には分布しません。この幼虫の食草が、やはり南方系のクスノキ科の植物なのです。クスノキは常緑樹で寿命も長く、公害にも強いため都市の緑化に利用されてきました。ですから、都心の公園や街路樹にはこのクスノキをずいぶん見かけることができます。そうした人為的な環境づくりが、都心部にアオスジアゲハの生活の場を提供したというわけなのです。
 都内では都心部にアオスジアゲハ、柑橘類の多い住宅街にナミアゲハやクロアゲハ、畑のある郊外にキアゲハという局地的な分布図ができあがっています。「住みわけ」というわけではありませんが、食草という環境による生息域が形成されているのです。
 ためしに、近所の家の庭からはみ出しているクスノキを眺めに行ったら、手の届く葉の裏にいきなり幼虫を見つけることができました。この幼虫をクスノキの葉っぱといっしょに飼育ケースに入れておいたら、一週間ほどで図鑑に載っている通りのサナギになったのです。
 田舎にいた子供のころの憧れのチョウがビルの谷間でやすやすと手に入るのはなんとも皮肉な話ですが、アオスジアゲハの羽化を見られたのは感激でした。都会の自然もまんざらじゃありませんね。
 



イトヒロ:少年時代の穴蝉とり名人にして東南アジアバックパッカー経由、草野球迷三塁手のイラストレーター。著作に「からだで分かっちゃう草野球」 、「不思議の国の昆虫図鑑」(凱風社)、「草野球超非公式マニュアル」(メタ・ブレーン)、「旅の虫眼鏡」(旅行人)など。雑誌「子供の科学」に「イトヒロのご近所探検隊」連載中。

◆イトヒロの東京不自然図鑑──これまでの話◆

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◎第1回「タヌキ」◎第2回「アブラゼミ」◎第3回「スズメバチ」◎第4回「アオマツムシ」◎第5回「クマネズミ」◎第6回「ワカケホンセイインコ」◎第7回「チカイエカ」◎第8回「ヒヨドリ」◎第9回「メジロ」◎第10回「モンシロチョウ」◎第11回「アカミミガメ」◎第12回「ヒキガエル」◎第13回「アオスジアゲハ」◎第14回「ハシブトガラス」◎第15回「セイタカアワダチソウ」イトヒロの訃報に寄せて

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