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イトヒロの不自然図鑑

<月イチ連載>

2003年07月2日up

 新宿から電車で10分。住宅地とはいえ、東京のど真ん中ともいえる世田谷にも自然があります。というより、都会でしか見られないような自然もあるのです。一般常識から言えば不自然とも思える東京の自然最前線を、お散歩がてらご紹介しましょう。

第1回「タヌキ」

 都心にタヌキがいる。と聞いたらびっくりするでしょう?先月ニュースになったハクビシンはペットが逃げ出したものらしいですが、こちらのタヌキは本当の野生種の話です。
 東京や横浜の郊外にはかなり以前から野生のタヌキが出没することは知られていました。宅地造成で近郊の山々が開発され、その辺りに棲んでいた動物たちがねぐらを追われたんですね。キツネなど多くの動物は山の奥へと非難したのですが、臆病なくせに警戒心のあまりないタヌキは逆に都会へ出てきてしまったというわけです。このへんがタヌキですね。
 ところがここ十年ほど、タヌキの都心部進出が著しくなってきて、練馬、杉並などでは餌付けに定着するタヌキもあらわれました。新宿から電車で5分、世田谷の代田橋駅前水道局施設もそのひとつ。私の家からは自転車で10分の距離です。これは、さっそく行ってみなければなりません。
 ここのタヌキ一家は大原狸(おおはらだぬき)として有名で、9年ほど前から棲みつくようになって、今では10頭前後の群れでいるそうです。
 うっそうとした茂みの中は柵で囲まれていて、タヌキにとっては絶好の住処になっているようす。夕方になってあたりが暗くなると、隣のレストランの中庭に2匹のタヌキが出てきました。その後、3匹の子ダヌキもあらわれて、お店の人が用意したキャットフードに群がります。椅子に座って観ていた私の足元にも寄ってくるほど人慣れしていて、さすがに都会に出てくるだけの順応力だと感心しました。
 敷地の周りは道路になっていて、朝方は近所の生ゴミを漁ったりするせいか、ときどき車に轢かれてしまうタヌキもいると聞きました。冬場も毎日レストランの人が餌を与えているそうですが、この目で見てしまうと、なんとか都会で生き延びてくれることを願わずにいられません。
 この敷地のすぐ北側には電車の線路があって、都会に進出するタヌキたちはこの線路伝いに移動しているのではないかといわれています。線路端には身を隠す緑もあるし、なにより人が入って来れない安全地帯でもありますから。
 折しもSARS騒ぎで肩身の狭いタヌキですが、私には都内で野生のタヌキが見られること自体が驚きでした。これでいいのか、野生のタヌキ!という感じですね。東京の自然もなかなか捨てたもんではないということでしょうか。


イトヒロ:少年時代の穴蝉とり名人にして東南アジアバックパッカー経由、草野球迷三塁手のイラストレーター。著作に「不思議の国の昆虫図鑑」(凱風社)、「草野球超非公式マニュアル」(メタ・ブレーン)、「旅の虫眼鏡」(旅行人)など。雑誌「子供の科学」に「イトヒロのご近所探検隊」連載中。

 

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◎第1回「タヌキ」◎第2回「アブラゼミ」◎第3回「スズメバチ」◎第4回「アオマツムシ」◎第5回「クマネズミ」◎第6回「ワカケホンセイインコ」◎第7回「チカイエカ」◎第8回「ヒヨドリ」◎第9回「メジロ」◎第10回「モンシロチョウ」◎第11回「アカミミガメ」◎第12回「ヒキガエル」◎第13回「アオスジアゲハ」◎第14回「ハシブトガラス」◎第15回「セイタカアワダチソウ」イトヒロの訃報に寄せて

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